持田総章《LOCATION》クロニクル

Sein und Zeit

2025.5.27 Tue. - 2025.7.5 Sat.

ICHION CONTEMPORARYの開館以降、私たちは一貫して、日本の戦後美術の中でも、関西を起点に独自の表現を築いてきた作家たちに焦点をあててきました。その中で今回取り上げるのが、1934年東京生まれ、大阪を拠点に半世紀以上にわたり活動してきた持田総章です。持田の芸術に一貫して流れているのは、「人間の存在が、世界や物質にどう意味を与えるのか」という静かな問いです。代表作《LOCATION》シリーズでは、空気を含んだフェルトという素材に、焼鏝で痕跡を刻むという極めて物理的な手法を用いながら、そこに存在の関与を記し、意味の発生を試みてきました。作品の主材であるフェルトは、空気を含む柔らかな素材です。それは、人間の存在が触れうる“未定義の場”を象徴します。そこに焼鏝で刻まれる痕跡は、空気という目に見えない存在に作用し、それを「記憶」へと変える儀式的な行為であり、持田にとっては単なる形式を超えた意味の生成の瞬間です。

焼印という痕跡は、単なる署名ではなく、「誰かがそこに居た」という記録であり、「空気に意味を与える」行為そのもの。見えないものに形を与えようとするこの営みは、観る者のまなざしによって完成されます。そこにあるのは、作家と素材、そして観者とのあいだに結ばれる、意味生成の連鎖です。この行為の構造は、観測によって現実が確定するという量子力学的な世界観にも通じます。人が見ることで初めて世界が意味を帯びるように、《LOCATION》は鑑賞者のまなざしによって完成し、その都度新たな意味が立ち上がる。そうした開かれた構造をもっています。

本展は、1970年代から今日に至るまでの持田の代表作と最新作を通じて、その思考と実践の変遷を辿る、初のクロニクル形式での展覧会です。展示には、立体、平面、インスタレーションといった異なるフォーマットがすべて含まれ、素材と空間へのアプローチがどのように展開してきたかを立体的に示します。会場には、《LOCATION》シリーズの中でも象徴的に扱われてきたモチーフ、たとえば飛行機、靴、階段といったイメージが現れます。飛行機は夢や希望、あるいは戦争の記憶といった両義的な象徴として、靴や階段は人間の移動や痕跡、空間との関係性を物語る記号として用いられます。また、深く澄んだ青の色彩は、空気や記憶、精神の深層と結びつく色として、持田の作品世界におけるもうひとつの重要な言語となっています。

クロニクル形式で構成される本展では、持田が長年にわたって繰り返し向き合ってきた主題と、その表現の“変化”と“持続”とを交差的に浮かび上がらせます。青、空気、痕跡、飛行機、靴、階段、同じ言葉を何度も語ることで、それが違う深度で響くように、作品群もまた、時を経るごとに意味を変化させながら、より深く私たちの中に沈殿していきます。

90歳を超えた今もなお、彼は新たな空気を吸い込み、痕跡を残し続けています。それは回顧ではなく、「今」と「これから」に向けての試みであり、私たちがこの時代において、「どこに在るのか」「何を刻むのか」を静かに問い返してくれるものです。持田総章という、時代の喧騒から距離を置きながらも、鋭く世界を見つめ続けてきた作家の軌跡を、あらためて今、ICHION CONTEMPORARYから届けます。

Open :
11:00 - 18:00 最終日のみ17:30終了
Close :
Sun.Mon.Holiday
Admission :
無料
Artists :
持田総章

持田総章

持田総章 (1934 - )東京生まれ
大阪芸術大学 名誉教授

【展覧会】1975 - 2024までGe展に出展

1979
日本現代版画展 アズマギャラリー(ニューヨーク)
1980
コンクール受賞作家展、大阪府立現代美術センター(大阪)
まがいものの光景展、国立国際美術館(大阪)
1981
現代のトップランナー達展、ナビオ美術館(大阪)
1984
現代のリアリズム、埼玉県立近代美術館(埼玉)
1986
個展 ミネアポリス美術デザイン大学(ミネソタ)
1990
芸術の相互作用展 テレポートセンター(ポワチエ)
1999
ピアノ+異空間 フェニックスホール(大阪)
2004
個展 大阪芸術大学(大阪)
2010
「かたちのちから」大阪市近代美術館準備室(大阪)
2011
個展 尼信博物館(兵庫)
2013
コレクション展 国立国際美術館(大阪)
2014
個展 画廊ぶらんしゅ(大阪)
個展 アトリエ西宮(版画・絵画)(兵庫)
2015
個展 ソウル市立美術館(ソウル)
個展 ぎゃらりー由芽(東京)
2016
個展 Gallery H.O.T(大阪)
個展 ギャラリー勇斎(奈良)
2017
「大阪版画百景」江之子島文化芸術創造センター(版画)(大阪)
2018
「第11回あかり作品展」Galleryキットハウス(大阪)
2019
個展 楓ギャラリー(大阪)
2021
「今も創っています。demonstration」 ギャラリー北野坂(兵庫)
2022
個展 LADSギャラリー(大阪)
2023
「日本現代美術の足跡と未来」ICHION CONTEMPORARY(大阪)
2024
「戦後美術コレクション展」ICHION CONTEMPORARY(大阪)

展示内容

LOCATION AIR

ミクストメディア W:92cm

Work

ミクストメディア H:217.0cm L:104.0cm W:66.0cm

LOCATION

2024年 ミクストメディア 162.0×130.4cm

LOCATION

2025年 ミクストメディア 91.0×72.7cm

The Golden Tale

1989年ミクストメディア 137.5×161.6cm

LOCATION AIR

1990年 ミクストメディア H: 72.5cm D:S0.Scm

LOCATION AIR

1996年 ミクストメディア 80.5×65.5cm

アクセス

〒530-0055 大阪府大阪市北区野崎町9-7

コンタクト

06-6364-1111
info@ichion-contemporary.com