シャングリラ──それは、雪深いはるか彼方の山の奥に隠され、人の心の奥底にだけ存在し続ける理想郷の名。ジェームズ・ヒルトンの小説『失われた地平線』(1933年)に描かれたこの地は、永遠の静寂と調和に包まれ、決して到達することのできない幻想の地として語り継がれてきました。守谷史男は、誰も見たことのない「心の中の理想郷」に向け、半世紀以上にわたりひたむきに歩み続けてきました。
1960年代には〈人体〉を主題とし、生命の有機的なかたちと無機的な構造物を対置させ、スプレー技法による圧迫された身体像を通じて、存在の緊張と葛藤、動と静の相克を描きました。1975年の渡米を契機に、守谷のまなざしは次第に絵画の根源的な構成要素である「線」「面」「色面」へと向かい、表現は抽象へと深化していきます。80年代以降、スクラッチ技法で絵具層を削り出し、線の反復や集積によって時間や記憶の痕跡を刻む《作品》や《跡》シリーズを展開。さらに、秩序とわずかなズレが静かなリズムを生む《列》、古代の円墳や霊廟の建築的記憶を幾何学的形態に昇華した《廟》シリーズへとその探求は広がりました。守谷の作品には一貫して「物質と行為」「記憶と時間」「構築と痕跡」が交錯し、その探究の歩みは、到達することのない理想郷に向かって続く果てなき旅そのものです。
彼の作品が目指したものは、形なき理想の姿であり、その不在を手がかりに私たちは問いを深め、想像を広げていくのです。本展は、守谷が生涯をかけて追い続けた「Shangri-La」の輪郭を、具象から抽象までの主要作品を通じて辿る試みです。見る者の心にひそむ理想郷が、守谷の作品の前でそっと輪郭を現すことを願ってやみません。
11:00 - 18:00 最終入場17:30
※最終日のみ最終入場16:30、17:00終了
Sun.Mon.Holiday
Free
守谷史男
※10名様以上でのご来場を予定されている場合は、必ず事前にお電話またはメールにてご予約をお願いいたします。ご予約のない場合は、当日のご入場をお断りいたしますので、あらかじめご了承ください。
守谷史男、1938年愛媛県生まれ。日本の画家、行動美術協会会員、大阪芸術大学教授。アメリカでの研修を経て抽象画に転向するが、アメリカ絵画の傾向を吸収しつつも、守谷独自の方法で抽象表現を取り入れました。「跡」や「列」などのテーマ性のあるシリーズ作品において、異なる時期や概念を豊かな色彩と多様な形態を見事に組み合わせて表現しています。特に四角形と三角形の組み合わせが興味深い要素となっている。
1962 – 2023まで行動展 出展
1975 – 2023までGe展 出展