ICHION CONTEMPORARYの開館以降、私たちは一貫して、日本の戦後美術の中でも、関西を起点に独自の表現を築いてきた作家たちに焦点をあててきました。その中で今回取り上げるのが、1934年東京生まれ、大阪を拠点に半世紀以上にわたり活動してきた持田総章です。持田の芸術に一貫して流れているのは、「人間の存在が、世界や物質にどう意味を与えるのか」という静かな問いです。代表作《LOCATION》シリーズでは、空気を含んだフェルトという素材に、焼鏝で痕跡を刻むという極めて物理的な手法を用いながら、そこに存在の関与を記し、意味の発生を試みてきました。作品の主材であるフェルトは、空気を含む柔らかな素材です。それは、人間の存在が触れうる“未定義の場”を象徴します。そこに焼鏝で刻まれる痕跡は、空気という目に見えない存在に作用し、それを「記憶」へと変える儀式的な行為であり、持田にとっては単なる形式を超えた意味の生成の瞬間です。
焼印という痕跡は、単なる署名ではなく、「誰かがそこに居た」という記録であり、「空気に意味を与える」行為そのもの。見えないものに形を与えようとするこの営みは、観る者のまなざしによって完成されます。そこにあるのは、作家と素材、そして観者とのあいだに結ばれる、意味生成の連鎖です。この行為の構造は、観測によって現実が確定するという量子力学的な世界観にも通じます。人が見ることで初めて世界が意味を帯びるように、《LOCATION》は鑑賞者のまなざしによって完成し、その都度新たな意味が立ち上がる。そうした開かれた構造をもっています。
本展は、1970年代から今日に至るまでの持田の代表作と最新作を通じて、その思考と実践の変遷を辿る、初のクロニクル形式での展覧会です。展示には、立体、平面、インスタレーションといった異なるフォーマットがすべて含まれ、素材と空間へのアプローチがどのように展開してきたかを立体的に示します。会場には、《LOCATION》シリーズの中でも象徴的に扱われてきたモチーフ、たとえば飛行機、靴、階段といったイメージが現れます。飛行機は夢や希望、あるいは戦争の記憶といった両義的な象徴として、靴や階段は人間の移動や痕跡、空間との関係性を物語る記号として用いられます。また、深く澄んだ青の色彩は、空気や記憶、精神の深層と結びつく色として、持田の作品世界におけるもうひとつの重要な言語となっています。
クロニクル形式で構成される本展では、持田が長年にわたって繰り返し向き合ってきた主題と、その表現の“変化”と“持続”とを交差的に浮かび上がらせます。青、空気、痕跡、飛行機、靴、階段、同じ言葉を何度も語ることで、それが違う深度で響くように、作品群もまた、時を経るごとに意味を変化させながら、より深く私たちの中に沈殿していきます。
90歳を超えた今もなお、彼は新たな空気を吸い込み、痕跡を残し続けています。それは回顧ではなく、「今」と「これから」に向けての試みであり、私たちがこの時代において、「どこに在るのか」「何を刻むのか」を静かに問い返してくれるものです。持田総章という、時代の喧騒から距離を置きながらも、鋭く世界を見つめ続けてきた作家の軌跡を、あらためて今、ICHION CONTEMPORARYから届けます。
11:00 - 18:00 最終入場17:30
※最終日のみ最終入場16:30、17:00終了
Sun.Mon.Holiday
Free
持田総章
※10名様以上でのご来場を予定されている場合は、必ず事前にお電話またはメールにてご予約をお願いいたします。ご予約のない場合は、当日のご入場をお断りいたしますので、あらかじめご了承ください。
ミクストメディア W:92cm
ミクストメディア H:217.0cm L:104.0cm W:66.0cm
2024年 ミクストメディア 162.0×130.4cm
2025年 ミクストメディア 91.0×72.7cm
1989年ミクストメディア 137.5×161.6cm
1990年 ミクストメディア H: 72.5cm D:S0.Scm
1996年 ミクストメディア 80.5×65.5cm
ミクストメディア W:92cm
ミクストメディア H:217.0cm L:104.0cm W:66.0cm
2024年 ミクストメディア 162.0×130.4cm
2025年 ミクストメディア 91.0×72.7cm
1989年ミクストメディア 137.5×161.6cm
1990年 ミクストメディア H: 72.5cm D:S0.Scm
1996年 ミクストメディア 80.5×65.5cm
持田総章、1934年東京都生まれ。版画家、大阪芸術大学の名誉教授。関西エリアの代表的な現代美術グループである「Ge」に所属、メインメンバーとして活動を行なっている。制作のテーマであるLOCATIONシリーズ「空気」は、長年の継続したコンセプトである。基底材のフェルトを加熱・炭化する事で、フェルトに内包されている空気を遮断もしくは拒絶する。この焼き印 (brand) を押す行為が、制作の主たる作業である。空気の含む所と含まない所、空気の内包と拒絶が画面を構成している。
モチーフは飛行機で、子供の頃に誰もが一度は夢に見た飛行は現実のものとなり、人間は時空の観念の変革を余儀なくされた。飛行の実現は想像と幻想を実体化し、新しい認識と行動に利便性をもたらしたが、一方でその実体は決して「平和利用」のみのものでなく、「戦争に使われている」現実がある。この選択は我々自身にゆだねられている。
国立国際美術館、大阪中之島現代美術館、大阪府立現代美術センター、大阪芸術大学、兵庫県立美術館、ミネアポリス美術デザイン大学、弘益大学、龍美術館
1975 – 2023までGe展に出展